CRAFTSMAN INTERVIEW

職人・田坂 × デザイナー鈴木

ストーリージュエリー®を支える「観察」と「視覚調整」

工房の風景
田坂晃洋

田坂 晃洋 Akihiro Tasaka

一級貴金属装身具製作技能士 キャリア23年 技能グランプリ2026 全国大会 貴金属装身具部門 金賞 「厚生労働大臣賞」

1984年生まれ。技能グランプリ金賞や日本左刃彫刻会・高円宮賞など、国内屈指の競技会で研鑽を積んだ確かな技術を持つ。 「何も引っかかりなく、すっと“いいな”と感じてもらえるものを」と語り、0.1ミリ単位の面取りから光の屈折、裏側の仕立てに至るまで、美しさと装着感の調和を追求。単なる装飾を超え、次世代へ受け継がれる普遍的な美を形にしている。

HISTORY & AWARDS

  • 2004:技能五輪 第42回大会出場 敢闘賞
  • 2011:一級貴金属装身具製作技能士 取得
  • 2015-2021:日本左刃彫刻会[新人賞][高円宮賞][日本左刃彫刻会賞]受賞
  • 2019, 2024:技能グランプリ全国大会 貴金属装身具部門 銀賞
  • 2020-2024:NEWJEWELRY TOKYO 出展
  • 2026:技能グランプリ全国大会 貴金属装身具部門 金賞「厚生労働大臣賞」
  • ※他、受賞・実績多数
CRAFTSMANSHIP

妥協なき精度を求めて。

職人になろうと思ったきっかけ

鈴木:まず、職人になろうと思ったきっかけを伺ってもよろしいでしょうか? 田坂:細かい作業が小さい頃から好きで、高校は工業高校で、機械加工とかをやってたんです。でも心のどこかで「手仕事」に憧れがあって。 ちょうどその頃、天然石が流行っていたり、シルバーアクセサリーの職人さんとたまたま知り合ったりして、「これは面白そうだな」と思って始めました。まさかここまで続くとは思ってなかったですけど(笑)。 鈴木:今、何年くらいになりますか? 田坂:18歳からなので、今41歳で23年ですね。 鈴木:もうほぼ四半世紀ですね。 田坂:でも職人の世界だと、まだ若手って言われるんですよ(笑)。

得意な加工・好きな仕事

通常 職人調整
鈴木:得意な加工の分野というか、「これは自分の得意領域だな」と思うものってありますか? 田坂:何か一つに特化している感覚はあまりないんですけど、細かい彫刻的なものは好きですね。ワックスでも地金でも、細かいものは楽しいです。逆に、大きいものはあまり得意じゃないかもしれません。 鈴木:そうなんですね。うちのお客様は、動物や植物のモチーフをオーダーされる方も多いんですが、そこまで作り込める職人さんって実はあまり多くなくて。 田坂さんには、絵では見えない部分も「ここはおまかせで…」と安心してお願いできるので、いつも助かっています。ああいう立体表現をお願いできる方って、なかなかいらっしゃらないんですよ。 田坂:鈴木さんからのオーダーをやるようになって、細かいモチーフが前より好きになったところもありますね。 鈴木:本当ですか? 無茶なデザインばかりを描いてしまって申し訳ないです(笑)。 田坂:いえいえ。あのサイズ感でのオーダーってめったになかったので、自分としてもチャレンジでした。最初は探り探りでしたけど、だんだん楽しくなってきました。 鈴木:ありがたいお言葉です。ありがとうございます。

印象に残る加工・大変だった仕事

通常
鈴木:苦労した加工とか、「やりがいがあった」「印象に残っている」というものはありますか? 田坂:そうですね…。やっぱり地金の種類や石の種類、仕上げが多いものは印象深いですね。プラチナ・ホワイト・ピンク・イエローの4種類の地金を使った作品なんかは、作業の段取りが本当に複雑で、「どの順番で進めるか」をかなり考えました。 地金や石、仕上げの種類が増えると、そのぶん手順の組み立てが難しくなるので、あれは頭も手もフル回転でしたね。 鈴木:あれは…本当に大変でしたよね。実際に組み立ててもらって初めて成立するところも多かったので、「職人さんのセンスあってこそ」だなと思いました。 田坂:ピアスとか、ひまわりのモチーフとか…。難しいものはたくさんありますけど、「綺麗に上がったな」と思えるものは、やっぱりやり終わったあと達成感がありますね。 ロードクロサイトのバラのブローチとかも思い出深いです。あれは本当に怖かったですね(笑)。 鈴木:そうですよね。裏どりもかなりこだわっていただいていて…。 田坂:なかなかハイグレードなものでしかやらないような仕様なので、裏面までしっかり入れられるのは、そういうジュエリーならではですよね。
通常 職人調整
鈴木:ロジウムメッキを一度かけてから、部分的に剥がしたり…みたいな、私も技術的な難易度は分からない部分が多いので、「こういうのできますか?」といろいろ相談しながらやらせていただいてます。バラの作品も、一部だけ剥がしたり、もう一つのペンダントも部分的にメッキを剥がすとか、「貴金属で美しく仕上がるのだろうか?」というところをたくさん叶えていただいて、本当にありがたいです。 お客様の「やりたいこと」と私の「やりたいこと」を両方を叶えてくださって、いつも「すごい面白いものができたな」と感謝しています。
複雑な地金の加工風景

ロジウムメッキを一度かけてから、部分的に剥がした加工


宝石・ジュエリーの魅力

鈴木:職人さんとして、いろいろジュエリーを作っている中で、宝石やジュエリーの魅力って、どんなところに感じますか? 田坂:ハイグレードで綺麗な石ももちろん大好きなんですけど、ちょっと個性がある石も好きですね。インクルージョンがかわいかったり、色の入り方が独特だったり。 前に、ホワイトサファイアの中にブルーの六角形の色帯が入っている石が、宝石大陸さんで販売されていたんですよ。それを見て「うわ、欲しいな〜」と思ってたら、いつの間にか売れてました(笑)。 鈴木:そういう「一点もの感」のある石って、見た瞬間に決める方、多いですよね。 田坂:そうですね。それと、ジュエリーの魅力って「身につける」だけじゃないと思っていて。僕自身もそうなんですけど、コレクションとして集めて、箱から出して眺めたり、手のひらに乗せてにやっとする、みたいな楽しみ方も好きなんです。 昔のブローチを集めてたりもするんですが、そういう「身につけないけど大切にしているジュエリー」っていうのも、魅力の一面だなと思います。 鈴木:わかります。宝石箱にしまっておいて、ときどき取り出して眺める時間って、すごく贅沢ですよね。 田坂:「身につけないと意味ない」という考え方もあるとは思うんですが、美術展に行って作品を眺めるみたいに、ただ見るだけで心が満たされる楽しみ方もあると思うんです。ジュエリーも、そういう存在になり得るのかなと。

技術革新(CAD・AI)について

鈴木:最近はCADやAIなど、技術の革新もどんどん進んでいますが、職人としてどう捉えられていますか? 田坂:僕はかなり肯定的ですね。昔、リューターが登場したときも、きっと当時の職人さんたちは「そんなのは邪道だ」「伝統が…」とか言ってたと思うんです。でも今、リューターを全く使わない職人さんってほぼいないですよね。 CADも同じで、新しい「道具」のひとつだと思っています。CADのおかげで、価格や時間の面で難しかったデコラティブなデザインにも対応しやすくなって、アンティークジュエリーのような世界観が、少し今の時代にも戻ってきている感じがします。 鈴木:私もCADを使わせてもらってますが、2次元のデザインだけだと限界があったところが立体で考えやすくなったなと感じます。 田坂:そうですね。CADがあることで、デザインする側も職人側も、お互いの距離が少し縮まったというか。 手仕事と新しい技術、そのハイブリッドが今の職人のスタンダードになっていくんだろうなと思いますし、AIがもっと進んでも、うまく共存して使いこなせる人が次の時代に残っていくのかなと思います。

見えない部分でのこだわり

鈴木:「見えない部分のこだわり」で気をつけていることはありますか? 田坂:リングでいうと、やっぱりフィット感ですね。指なじみの角の取り方ひとつで、つけ心地や質感が全然変わるので、そこはちゃんと仕上げたい部分です。お客様が「見た目のボリュームのわりに、つけていて痛くない」と感じてくださっていたら嬉しいですね。 あとは、大事なジュエリーはセーフティを付けたり、構造の面でも「なくさない」「壊れても直せる」ことを意識して組み立てています。 どうしても物なので、傷ついたり壊れたりすることはありますが、そのときにメンテナンスしやすいように作っておくのも、職人の役目かなと思っています。サイズ直しをしながら、次の世代まで使ってもらえたら理想ですね。 鈴木:今まで制作したジュエリー達も、譲られていって、アンティークと呼ばれるまで残ってほしいですよね。本当に。

職人としての“視覚の調整”

鈴木:完成品で「ここを見てほしい」というポイントってありますか? 田坂:技術的な話というより、「視覚の調整」みたいな部分ですね。 錯視ってあるじゃないですか。斜めのラインで物を部分的に隠すとずれて見えたり、取り巻きの石の大きさでセンターストーンが大きく見えたり小さく見えたり。そういう“視覚的なバランス”はかなり気を使っています。

【視覚調整の例:陰影のコントロール】

通常 職人調整
田坂:あと唐草なんかだと、全部ピカピカに磨いちゃうと形がぼけてしまうので、谷間だけあえて少し曇らせて陰影を残したりします。影の落ち方・光の吸収の仕方も含めて「何も気にならずにすっとデザインが入ってくる」状態にしたくて。それが職人の仕事かなと思っています。 鈴木:確かに…うちは作例の細部を詳細に撮影して載せているので、そういった繊細な部分に気づいてくださってるお客様も多いと思います! 作例を見てくださって、「ここなら任せられる」と思っていただけているのは、ほとんど田坂さんの仕上げのおかげです。 田坂:ありがとうございます。

デザインを超える「職人の観察」

複雑な地金の加工風景

デザインの先をつくる

鈴木:私の絵には描いてないところを、田坂さんが職人さん視点で補ってくれている事があって、より素敵なジュエリーに仕上げてくれていますよね。 例えば、この「恐竜がいた気配」をリングにした作品。恐竜の骨が出土される様を、リング全体で表しているのですが、アームが地層になっていて、そこは大きなガタついた溝を立体で入れておく事だけで表現しようとしていたんです。 私だけでは、技術的にどこまでやれるか、または、どんなアプローチが効いてくるのか分からず、そのような想定に留めていました。でも、田坂さんは、細かい地層の描写を彫りで入れてくださったり、骨のヒビの描写も、技術的に可能なギリギリを攻めてくださりましたよね。
通常 職人調整
田坂:修行時代からよく「絵を読みなさい」と教わっていました。デザイナーさんから頂いたデザイン画や資料、打ち合わせで聞いたストーリーなどからどの様なジュエリーを想像しているのかを読み取れる様にしています。 鈴木さんのデザイン画は業界でも珍しい程、描き込まれていて表現したい事が凄く伝わって来ます。絵に負けない様に作業をしていて気がつくと細部まで手を入れてしまう事がありますね。 鈴木:ここまで出来るんだ〜!と、感動しました。 田坂:その様に言って頂けて嬉しいです。

趣味の話・版画と観察

鈴木:ジュエリーとまったく関係なく、今ハマっていることって何かありますか? 田坂:少し前なら「柔術」って言いたかったんですけど、怪我してしまって…。今、関節を痛めていてずっとお休み中です。 あとは、ジュエリーと全く関係なくもないんですけど、「昔の版画」ですかね。そういうものを収集したりしています。 鈴木:ご自分では描いたりしないんですか? 田坂:鈴木さんとか、すごく描き込まれるじゃないですか。僕はなかなか…。 鈴木:(笑) 田坂:図鑑の植物画とか、そういうのが好きなんです。たくさん版画はありますけど、昔の人の観察って、本当に素敵だなと思っていて。僕は自分で描けないんですけど、眺めたり写真を見たりするのは好きなんです。 ちょっとなんていうんですかね…人の目の調整が入っているというか。気になったところがより書き込まれていて、「見せたいところ」が形に表れている。そういう、意図が少し人のフィルターを通っている感じが、やっぱりいいところだなと思います。 鈴木:確かに。気に留まったところがより入念に描き込まれていて、「ここを見てほしい」がそのまま形になっている感じ、すごくわかります。 そういう意味では、ジュエリーデザインとも少し似ているところがあるのかもしれないですね。 田坂:そうですね。ちょっと収集癖があって、いろんなものを集めちゃうんですよね(笑)。 鈴木:結構、男性のほうが収集志向多いですよね。宝石も、本当に「集める」というスタイルの男性のお客様、コレクターの方がたくさんいらっしゃいます。

職業病・日常で気になってしまうこと

鈴木:職業柄、つい気になってしまうこととか、日常の中で出てしまう癖ってあります? 田坂:街の中で、今どういうものをつけている方が多いのか、つい見ちゃいますね。ミネラルショーに行ったときも、「どういう人がどういう石を買ってるんだろう」と観察してしまいます。 あとは、ポスターが曲がってると気になってしまうとか…細かいですよね(笑)。 鈴木:あ〜、わかります。でも石が綺麗に留まっているのを見ると、「ああ、活きてるな」って思います(笑)

今後の挑戦・未来への展望

鈴木:今後、挑戦してみたいことってありますか? 田坂:自分で描けるようになりたいですね。自分で描いて、自分の作品を自分で作る…ということにいつか挑戦したいです。 鈴木:絵を描かずに作る…は難しいですか? 田坂:僕は絵があったほうが仕上がりが良くなるので、どうしても絵が必要なんですよね。 終着点が見えていると手を動かすときに迷わないので。 鈴木:でもこれからはAIで、頭の中のイメージをそのまま形にできる時代が来るかもしれませんよ。最近はお客様が「AIで作った画像」を持ってこられることも増えました。「こんな雰囲気でお願いします」とか。 田坂:すごい時代ですね…。 鈴木:手作業そしてCADそしてAIと進化していますが、それをどう使いこなすかで未来は大きく変わると思います。 うちはCADをメインに切り替えて本当に良かったと感じています。
「何も引っかかりなく、すっと“いいな”と感じてもらえるものを。」

Message

鈴木:最後に、ジュエリーを楽しんでいる方や、宝石大陸をご利用くださっている方にメッセージをお願いします。 田坂:ジュエリーやルースは「身につける」だけがすべてじゃないと思っています。箱から出して眺めたり、手のひらに乗せてみたり、ただ「愛でる時間」もぜひ大事にしてもらえたら嬉しいです。 そして、そうやって大事にしているルースを「ジュエリーにしたいな」と思ったときに、もしご縁があって僕のところにその石が回ってきたら、本当に幸せです。手にしたとき、何も引っかかりなく、すっと「いいな」と感じてもらえるようなものを、これからも作っていきたいですね。 そしていつか、街でふと、自分の作ったジュエリーを身につけている方とすれ違えたら…というのが、密かな夢です。

INTERVIEW SUMMARY

インタビューを通じて見えてきたのは、技術をひけらかさない「引き算」の美学です。
「何も引っかかりなく、すっと入ってくる」という田坂さんの言葉。それは、完璧な視覚調整が行われた結果、職人の気配すら消え、宝石本来の輝きだけが残るという究極のゴールを指していました。

伝統的な彫金から、現代のCAD、そして未来のAIへ。道具にこだわらず、ただ「美しい形」を追い求めるその瞳は、23年前と変わらぬ好奇心に満ちています。

― Text by M.A ―
NEWS / 2026.03

技能グランプリ2026 全国大会
貴金属装身具部門「金賞・厚生労働大臣賞」受賞

日本一の栄冠。10時間という極限の制約が生んだ、究極の精度。

2年に一度、全国から選抜された一級技能士たちがその腕を競い合う「技能グランプリ」。
田坂氏は2026年度全国大会(2/28-3/1開催)にて、最高位である「金賞」および各職種の金賞受賞者の中で特に優秀な成績を収めた者に贈られる「厚生労働大臣賞」を受賞いたしました。

競技は、課題(平面設計図)に対し、決められた支給材からすべて手作業で10時間以内に仕立て上げるという過酷なもの。 コンマ単位の狂いも許されない極限の緊張感の中で、磨き抜かれた観察力と技術が「日本一」という形で結実しました。